昨年末、JRローカル線を乗り継いで帰省した時のエピソードである。2度とやらない。
東京からひたすらJR在来線を北上し続けたこの電車旅。福島駅から仙台駅行きの電車に乗り、前日の徹夜による疲れと寝不足から座席でしばらく熟睡していたのは動画でも紹介した通りだ。
目が覚めたのは岩沼駅を通過した辺りで、電車が次の名取駅に停まると人がワーッと乗ってきた。眠い目を擦りながらボケーっとしている私の前に立ったのは、幼稚園くらいの男の子とその母親。大勢の乗客でギュウギュウの車内。その混雑具合と圧?に耐えきれなくなった男の子が母親に「疲れた」と訴えるが、母は「我慢しなさい」「迷惑だから騒いじゃダメ」の一点張り。
私は十分寝たし、仙台駅まであとちょっとだし……ってことで、立ち上がって「ここ座っていいよ〜」と男の子に声をかけた。すると母から「いいえ!大丈夫です!結構です!ご心配なく!どうぞお座りになっててください!」と全力で拒否された。男の子はそれを聞いてガッカリしていた。その様子から「あー、このお母さんヒステリー系だな」と察した。子どもが他人と接触しただけで迷惑をかける、と思い込んでいるタイプ。そんなことないんだけどね。世の人々はあなたが思っているよりずっと優しいんだけどね。
かと言って、この男の子を立たせておくわけにはいかない。地方の電車は首都圏と違い(距離が長いので)スピードをガンガン出して移動する。つまり揺れの衝撃が大きく、それがチビっ子にとっては時に辛いものとなる……ということは、自分の幼少期の体験から容易に想像できる。もしこの坊やが転んで怪我でもしたら、怪我人対応の理由で電車が遅延しかねない。それは困る。ただでさえ埼京線板橋駅付近で運転見合わせのおそれがあったところを、GJな人のおかげで奇跡的に回避してここまで来てるのに……
ん?そうか。
「私は大丈夫ですよ。それに(電車が揺れて)危ないし(怪我されたら)迷惑ですので」
あえてネガティブな表現に変えて再提案してみた。他人を気にするタイプなら他人に迷惑がかかる行為は避けたいはずだ、と先を読んでのアクションだった。普段こういう言葉を使って人に席を譲る事はないが、男の子がこのまま立ち続けたら危険なのは事実である。
すると母は「うぐっ……」という表情を一瞬浮かべて、渋々男の子を席に座らせた。男の子はホッとした様子だった。親子は私より先に電車を降りていった。
できればもっとお互いに気持ちの良いやりとりをしたかったが、世の中にはネガティブな表現を使わないと伝わらない人もいる。「表現に正解はない」という、クリエイターなら全員周知の大前提を改めて思い知らされた出来事だった。