Netflixで「はじめてのおつかい」が配信され、海外で人気が出ているらしい。
私は昔から、それこそ取材対象になりそうな歳の頃からあの番組が嫌いだった。なぜか? 誰一人まともに買い物ひとつできやしないからである。
知らない土地で初めて行く店なら、どこに何があるかわからなくてピーピー泣いても仕方がないと思う。しかし、行き先のほとんどが「お母さんとよく買い物に行く近所の店」だ。
幼い私は、放送があるたびに登場するキッズを「こいつら全員バカだ」と思いながら見ていた。同時に「私なら完璧におつかいをこなせる」という自信もあった。行きつけのスーパーへのルートは当然知ってるし、必要なものが陳列されている棚がどこにあるか大体わかる。レジでお金払っておつりだってもらえるぞ。
ある日、自信満々に母に向かって「おつかいある?何か買ってくるよ?」と言った。
母から返ってきた言葉は「ダメ」。即答だった。
なぜだ、母は私が優秀であることを知っているはずだ。ゴールデンタイムのお茶の間に醜態を晒すあの子どもたちと私はレベルが違う。
母よ、どうかこの私におつかいをお願いしてくれないか。そして見事に達成するであろう私を心から褒めてくれ。「まぁ、なんてウチの子は立派なんでしょう!」と……。
目の前に当時の私がいたら、こう声をかけたい。
君の気持ちと言い分はよーーーくわかる。
だが誤解していることが2つある。
まず、「はじめてのおつかい」は君たち子どもにおつかいを推奨する番組ではない。
君は「じゃんけんキッズ」「ひとりでできるもん」を好み、「たのしい幼稚園」を愛読するほどの賢さを有している。おつかいも余裕でこなせるのは間違いない。
しかし、あの番組は君たち子ども向けではなく、大人向けに作られている。右も左もわからない幼子が奮闘する姿を見て一喜一憂するバラエティ番組、エンターテインメントなんだ。
だからそもそも、君のような優秀な子どもが出てくるはずがない。番組のコンセプトからズレるし、盛り上がる場面=山場もなく面白くないから。
思い出すんだ。日曜昼にTBS地上波(当時)で放送してる「噂の東京マガジン」の「やってTRY」のコーナーを。上手くできないのが面白い……アレと同じ構図なんだ。
テレビも客商売、面白くて見てもらえる番組を作らないといけない。制作してる人たちの意図を汲み取ってあげようね。
もう一つ。
君が生きている時代は、新潟女児監禁事件や女子高生コンクリート詰め事件など、子どもや女性を狙った凶悪犯罪が目立っていた時期。子ども単独での不要普及の外出は控えさせるべき、というのが親たちの見解だったんだ。
母は優秀で可愛い娘の君が、万が一のことに巻き込まれるのを防ぐためにわざとおつかいを頼まなかったんだよ。
不服だろうが、君があの時我慢してくれたおかげで、今の私がいるんだ。そのことをどうか誇りに思ってほしい。君が誇れるように、私も頑張るから。
この答えにたどり着くまで四半世紀かかった。
長生きしないとわからないことってあるものである。